『直木賞と芥川賞を読む』

 

🍎2022,9,18現在

 直木賞17/198(人数で数えました。)

    芥川賞40/178

 

  まだ15%です。しかも分母は増え続けるのです…。

 

☆☆☆☆☆ 

完全趣味のページ。

今までの人生でなぜか避けて通ってきた「芥川賞」と「直木賞」作品にひたすらチャレンジします。

 

何故か東京五輪開催(この時点で開会式まであと550日あまりでした)までに読むぞ!という企画です…でした。

東京五輪が2021年になったので締め切りが伸びましたが当然間に合いませんでした…

 

 

 

直木賞&芥川賞 第31回〜はこちら『本を読む2』

 

 


🌟直木賞

🌟芥川賞



第1回直木賞作品。戦前の作品だし読みにくいのかな…と思ったらサクサク読めた。そして面白かった!この作品が今後の評価の基準になりますからね。

昭和10年の作品だけど、描かれているのは大正時代。一瞬、江戸時代か…?と思うような雰囲気なんだけど、時々カタカナ言葉が出てくるのが面白い。もう自動車も走っていた頃なのだ。会話が、声に出してみたくなるような素敵さ。(2019,1,18)

※あの川口浩のお父さんです


第2回直木賞作品。選考の菊池寛「売れる当もないのにああした長編を書き上げた努力は、充分認められてもよいと思ふ」ってどうなの!?物語は楠正成の子ら、主に正儀(虎夜叉)のお話。歴史をよく知っている人が読めばたいそう面白いんだとは思うのですが、疎い私が読むのはとても骨が折れました。わかりやすい物語では決してありません。受賞したのは1,2巻なので今回は1,2しか読みませんが、もしかしたら3,4,5ととてつもなく面白くなったりする…のかも…。

びっくりしたのは、「てへ」って言葉が出てくるところです。南北朝時代には既に使われていたというのでしょうか…。(2019,2,7)


 第3回直木賞作品「天正女合戦」「武道伝来記」。時代物なのに、冒頭部分での「ビロードのような」という比喩が面白い。一瞬でイメージを喚起して物語に入り込めるなあと。「天正〜」は政略に巻き込まれていく利休とその娘の話。「武道〜」は臆病者と蔑まれた父のせいで苦しむ若い武士の物語で、どちらも『潔さ』が、こう、いいのです。読後感よいです。(2019,2,8)※「天と地と」の人。


第4回直木賞作品。創元推理文庫!初のミステリで心踊りました。でも読後感はミステリを読んだー!というよりは、人生のやるせなさ、切なさみたいなものの印象が強く…。これもまたなかなか良いものでした。『読者諸君への挑戦』がちゃんとあります。人生の阿呆って言葉が深い。(2019,2,23)

 

※大脳生理学者だったんだって!

 日本探偵作家クラブ(現・日本推理作家協会)第3代会長。


第5回直木賞、該当なし


第6回直木賞。ああ、普通に、読みやすかった。読みやすいだろうという気はしていた。さすが井伏鱒二。感情に流されず、淡々と。つい、山椒魚も読んでしまった。大人になってからの方が、くるね。選評「現在の大衆文学が持たない特殊な大衆文学性」なるほど。(2019.3.21)


第7回直木賞『ナリン陛下への回想』橘外男。直木賞だからといって全てすっすっと入ってくる作品ばかりじゃない。でもこれは文体がどうのとかいちいち気にならなかった。つまりとても良い作品(私にとって)。小説というか回想録なんだろうけど、時々素直な心の声をぶっこんでくるのが面白かった。(2019,4,16)


第8回直木賞『秋田口の兄弟』大池唯雄。秋田口ってなんだろと思いますよね。時は慶応4年、明治へと移り変わるその前夜ってところでしょうか。まだ世の中は戦さの混乱の中にあります。仙台藩の「秋田口」や「相馬口」など、おそらくは陣を張っている場所をそう呼んだのではないかと。で、秋田口には三兄弟がいて、戦さのなかで、他の人と同じように強奪やひどいこともしたんだけど…この読後感の爽やかさみたいなものはなんだろう。物語としてうまい。心に残るやり方を知ってる感じ。

(2019,5,8)


第9回直木賞、該当なし


第10回直木賞、該当なし


第11回直木賞『小指』堤千代。初の女性受賞者!心に残る小品。とってもいいお話なのに『愛の迷宮』なんてタイトルで他の作家の小説とまとめられると借りにくいし買いにくいと思うよ?

 

※22歳10ヶ月での受賞は最年少。その後38歳で早逝。

(2019,7,10)


第11回直木賞、河内仙介『軍事郵便』

書籍が手に入らず、探し中〜


第12回直木賞、村上元三『上総風土記』

書籍が手に入らず、探し中〜


第13回直木賞、木村荘十『雲南守備兵』

書籍が手に入らず、探し中〜


第14回直木賞、該当者なし


第15回直木賞、該当者なし


第16回直木賞、田岡典夫『強情いちご』

書籍が手に入らず、探し中〜

 

第16回直木賞、神崎武雄『寛容』

書籍が手に入らず、探し中〜


第17回直木賞、該当者なし


第18回直木賞、森荘己池『山畠』『蛾と笹舟』

書籍が手に入らず、探し中〜


第19回直木賞、岡田誠三『ニューギニア山岳戦』

書籍が手に入らず、探し中〜


第20回直木賞、該当なし


第21回直木賞、冨田常雄『面』『刺青』

書籍が手に入らず、探し中〜


第22回直木賞。3ヶ月ぶりの直木賞!!そして内容も素晴らしかったです『海の廃園』山田克郎。海洋ものをよく書いていらっしゃったらしい。読んでみたらいいと思う。まるで冒頭、海の中に住んでる者たちの目線のような描写で始まり、ひょっとしたらそういう者たちのお話なのか?と一瞬思う程。タイトルもいいじゃないですか。終わり方も、いいじゃないですか。絵が浮かぶ。褒めまくりだ今回

※『快傑ハリマオ』の原作者だそうです(2019,10,19)


第23回直木賞。天皇の帽子…というタイトルから予想できない感じの物語。え、そんな風に天皇の事書いていいの?という描写もありました。意外と自由だったんだな。第23回なのに、今までで一番、文体が歴史みを帯びていて読みにくぅございました。

※演出家でもあり、文化庁長官も勤めたり、肩書きは80以上あったという。モナリザ日本初公開を実現させたのもこの人。

(2019,11,11)


第23回直木賞、小山いと子『執行猶予』

書籍が手に入らず、探し中〜

 


第24回直木賞、壇一雄『新説石川五右衛門』『長恨歌』

書籍が手に入らず、探し中〜

 

 

※壇一雄さん、昭和文壇屈指の料理人!!って!!気になる!料理本出してる。読みたい!あと、太宰と安吾についても超書いてる。好きだったのか、嫌いだったのか…


第25回直木賞。あっぱれー!面白かった。わくわくした。サラリーマンものです。時代は変わったよね!

京太を主人公に何本も書かれてるシリーズ物で、軽妙な文体でサバサバと、だけど人情味と勤め人の悲哀と、暖かく描かれている。楽しく読める。心にも残る。

※源氏さん自身サラリーマン(住友系)だった。作品のうちなんと80本が映画化されている。京太=鶏太、なのかな?(2019,11,14)


第26回直木賞『イエスの裔』柴田錬三郎。なんとこれ、芥川賞候補でもあったとか!ちなみに「いえすのすえ」です。微妙に回文じゃない。善人としか言いようのない男が、自分の孫娘のような存在を手にかけるところから始まります。三人の証言者の話から、なぜ彼は殺さねばならなかったのか、が明かされてゆきます。やるせない感じのお話。

※何と言っても『眠狂四郎』。そして文化人タレントのさきがけのような人。(2019,12,1)


第26回直木賞『鈴木主水』久生十蘭。ジュウラニアンというものが存在するらしい。久生十蘭を愛読する者たちのことらしい。かの中井英夫とかも…。

正直、鈴木主水を読んで、よく意味がわからなくて、誰か教えてください( ;∀;)って感じです。多分こうだよね?って予想はできるんだけど…。

他の作品も読んでみた。ああ…なんか…この人はコトを起こさずには人生渡れない人なのだろう(作者はどうか知らないが、登場人物そんな印象)。平穏無事に生きる選択肢もあるのに、あえて!あえてそれ選ぶ!?という生きにくい道を選んで行く。自分が悪者になってまで、世の中を変えたいとか、誰かを救いたいとか、偽善でなく、そういう「欲求」があったのだろう(作者の中にも)。そういう決して明るくない思想がジュウラニアンと呼ばれる人たちの心を掴んだんだな(決定)(2019,12,1)


第27回直木賞。この文庫の…表紙!これも買いにくい借りにくい本になっちゃってるけど!

さて『罪な女』、想像するような、男を掌の上で転がす感じじゃなくて。必死で、でもバカな判断しちゃって、本当に好きな人との道を貫けない。でも相手の男にとってはそれは「見えない部分」なのだ。相手の男性、独り者だと思ってたら急に奥さんとか文章の中に出てきて驚く。まだ、読み手に親切じゃなくても良かった時代です。

(2019,12,4)


第28回直木賞『叛乱』立野信之

書籍見つからず、探し中〜


第29回直木賞、該当なし


第30回直木賞、該当なし


第1回芥川賞作品。読むの難航しました(T . T)。戦前の貧しい農民がブラジルに移民として渡ってゆく実態を自らの経験を元に書いています。つまり実話な部分も多いと推測されますが、むむむ。筆は辛辣。解説に「移民の実情を訴えようとする。この溢れるような善意」とありますが、善意…?むむむ、です。こういう感想を持つことも作者の意図したところだったとしたら見事はまってしまったわけですが、もし私がブラジル移民の子孫だったらこの作品、複雑な気持ちになるなあ…(2019,1,23)


第2回芥川賞、該当者なし


第3回芥川賞作品『コシャマイン記』。英雄の息子であるコシャマイン(英雄コシャマインとは別の架空の人物。)の人生を描いた物語。アイヌの単語が頻出するけど、不思議と読みにくくない。英雄譚かなー、と思って読み進めるけれど、すっかりアイヌ民族の末路のことを忘れていた。あまりにも唐突に物語が終わって「えっ!?」と声をあげてしまった。

 

芥川賞ではないけれど、北海道の酪農黎明期を描いた『ベロニカ物語』も記憶に残るいい作品。(2019,2,9)

※北海道な作品が多いけど福岡出身。


第3回芥川賞作品『城外』。杭州領事館に派遣されていたことのある筆者がその経験をもとに書いた。私、森鴎外の『舞姫』は全く好きではないのですが…ってここに持ち出すのも短絡的でごめんなさいなのですが、それよりは好きです。やわらかく読みやすい文章。情景描写が好み。原稿のお写真が載ってましたが、やや丸文字風なのが可愛らしい…。作者イケメン(2019,2,10)


第4回芥川賞作品『普賢』。やー、笑っちゃうくらい一文が長い!!これ小学校でやったら絶対怒られるやつ(笑)!自由に書いていいんだね、って感じ。旧仮名遣で読みにくいけど、声に出してみるとなかなかリズムも…いいかも…なんだけど。なんだけど。娯楽作品じゃないから、といえばそれまでだけど、読んでも気分は上がらないし、人の嫌な部分を見た気になるし(もしかしたらそういうところを描く事が重要視されてるのかな)…。なんで私はこれを読んでいるのだろう、って度々立ち止まってしまいました。それでも素晴らしいところがあるから選ばれてるんだよねえ(←ひどい)。夢追う若者が、なんだかんだ、女で人生を踏み外し、悩み、お金ないのに酒呑む人はいて、知人のアパートに居座る人もいて、雑多で、逞しい、のかな…。

しかし選考委員の一人「私はまだ普賢を読んでいないが」ってやめて!!(笑)(2019,3,4)

※いわゆる無頼派の一人らしい。既成文学の否定、的な。


第4回芥川賞作品『地中海』。パリ留学なのになんで地中海?と思うかもしれませんが、そこは読んでいただければ、ちゃんとわかります。『普賢』と続けて読んだせいか、また若者が女性で人生狂わす話かーって思っちゃいました。芥川賞2作品ともって!この頃の流行りなのかしら。女性とのやり取りを深く書くというより、人生を狂わすための(?)一道具として女性というモノが描かれている、って感じ。もーんとしながらも、本を返却する前にまあ他の作品の冒頭だけでも読んでみようと気まぐれでページをめくったら…ちょっと!『白い壁画』、長篇なんだけど、え、え、えーーーーってくらい引き込まれて、がっつり読んでしまいました。富沢さん、書けるじゃん(笑)!!!芥川賞のだけ読んで判断しちゃいけないんだなって。芥川賞をとった作品が必ずしもその作家の最高傑作ではないのだ、と。でも芥川賞とったからこそ書けたものなのかもしれないしね。受賞から20年後の作品です。映画化もされてます。これ読んだら赤坂見附のあたりを散策したくなりますよ。※「ういお」さん。ちなみにお母様は「あい」さんです。(2019.3.20)


第5回芥川賞作品『暢気眼鏡』尾崎一雄。私小説で、短編で、シリーズものというか…この後も続いていきます。貧乏小説、というカテゴリ(?)だそうで。登場人物である奥様のキャラクターの力がすごく大きいです。私、この方の文体、言葉選びは好きだなあ。ただ、びっくりしたのは、小説の途中に“追記”とあって「途中から筆が進まなくなった、暢気設定の妻がそんなに暢気じゃなくなってきた」とか「何故一気に書いてしまわなかったのだろう」という風なことを書いているのです!自由すぎる!でも芥川賞!(作者を世の中に引っ張り出す、という役割もあったのですね)

 

そしてこの本の解説で、とてもなるほど!と思うような事がかかれてありました。高橋英夫さんという方で「当時文学修業の中心的要素と考えられていた酒、女、交友関係」…そうかーーー!そうならば『普賢』とか『地中海』とかそういう作品すごく納得!(2019.3.20)


第6回芥川賞『糞尿譚』。タイトル…。絶対、手に取らないよね、普通ならね。汲み取り業を営む男性が主人公。桶に汲み取って、肥料として売ったりする時代のお話。どうしたって、題材が、読みたいものではなかった。また本を読む理由を考えちゃう。火野さんの印象、この作品だけで決めちゃあダメだろうな。火野さんの他の作品だったらなあ…と思ってしまう私は浅〜いところで読書する人間なのだろう…(2019.3.30)


第7回芥川賞。中山義秀。あっぱれ。人生渡りきった人が書いたような。でもまだ37才。芥川賞受賞の年齢としては若くはないけど。でも今の時代にしたらまだ37でこれを?って思うなあ。読んだら自分の人生も思わず俯瞰で振り返ってしまうような本です。厚物咲って、菊の分類の一つです。(2019,4,14)


第8回芥川賞『乗合馬車』『日光室』中里恒子。初の女性受賞者。この方のお写真、モガって感じです。書かれるのは、日本人と結婚して日本に暮らすフランス女性の話や、“混血児”の人たちのこと…。まだ国際結婚も珍しく、ハーフの人たちも奇異な目で見られていた頃のことです。彼女たちの日常を柔らかい印象の文章で描いています。なんとなく優雅な感じが根底にあります。

ついつい音読したくなってしまうのは職業病でしょうか、でもこの方の小説は不思議と読みにくい。書くスピードで追っていくとちょうど良いのです。この方は“書く速さ”で、物語を作っていったんだなあ、と思います。

そして文章の雰囲気が独特で。悲しい感情の一文だと思って読んでいると、終わりの方ではふいっと前向きな感じになっていたり。初見では音読できない(笑)文章です。

何度か読み返したい、と思いました。ゆっくりと時間をかけて咀嚼したいし、それに耐える奥行きがある気がする。(2019,4,26)


第9回芥川賞、長谷健。長編(^◇^;)。「『あさくさの子供』達の特殊な不良性の愛らしさがヴィヴィッドに描かれている」という書評を引用しなければならない程、感想に困った。十代の子ども、ずるさや早熟さ…(私は愛らしさは感じなかった…)それが「あさくさの」と地域を固定して描かれていると、複雑な気持ち。そして江礼という主人公の名前どう読むのかわかんなくてストレス(笑)。「人がよく書かれている」という事はいったいどういうことなんだろ?ますますわかんない。

(2019.6.30)


第9回芥川賞『鶏騒動』半田善之。この物語も、やはり人の汚い部分をクローズアップしてゆく感じです。村に引っ越してきたロシア人と、食い意地汚いおばあさん(笑)の交流がメインです。終わり方!終わり方あんなんでいいの?

食べ物の描写がおばあさんの執念を感じさせるんだけど、不思議と「ああ、美味しそう〜」ってならない。あそこまで食べ物に焦がれる感じというのを知らないのは幸せな事だけどね(2019.6.30)


第10回芥川賞『密猟者』寒川光太郎。密猟という血生臭い題材ではあるけれど、言葉が凛としていて、声に出しても伝わりやすく、良作。国語の教科書に載りそうな。あれ?芥川賞読んでてそう感じたの初めてだ!!

(2019,7,10)


第11回芥川賞、該当者なし。


第12回芥川賞『平賀源内』櫻田常久。史実に忠実に、ではなくあくまで小説という事でしたが、昭和15年、ここにきて現代の小説に続く何かしらを感じたワタクシ。読み手に寄り添ってきた…?実在の人物を描いているから「読者にどう見られるか」をとにかく大事にした結果なのかも。興味深く読めた。

(2019,7,31)


第13回芥川賞『長江デルタ』多田裕計。支那事変直後の上海を舞台に、日本人の新聞記者と同僚の中国人、そして思想を異にする主人公の姉、の3人の物語。抗日派と親日派それぞれの新聞社同士の対立。難しい内容だけど、最後には印象的な美しいシーンと美しい言葉が。

 

この回の芥川賞直木賞の選評は座談会方式で記録されていて、選者は下手だの幼稚だの好き勝手言ってて面白い。意見はすごく割れてて(笑)。時局とかを鑑みて決められることもあったんだな。

(2019,8,5)


第14回芥川賞『青果の市』芝木好子。女性ですが、男らしいというと語弊があるけれど、力強い文体。築地市場、仲買い商の父を継いで頑張る女性の物語。時局(統制経済)への配慮から後半は書き直されたらしい…。

 

第二次世界大戦の頃の物語なのに、今この時代となんら変わらない、時代(政局?)に流される一市民のやるせなさ。いつの時代も同じだねえ、なんて言ってられないよね。変わらなくちゃダメなのにね。ほんと、過去の物語に思えなくて。

(2019,8,5)


第15回芥川賞、該当者なし


第16回芥川賞『連絡員』倉光俊夫。支那事変を背景に、記事や写真を最前線から新聞社に運ぶ日本人の連絡員のお話。爽やかな風景の中の主人公のお墓から物語は始まる。人を描き、行動を描き、思いを描き、死を描く。でも決して“全て”は描かない。文章は、わかりにくいところもあって、稚拙…?と思う程だったけど、作家生活15年というから、全て計算づくなのかも。

(2019,8,9)


第17回芥川賞『纏足の頃』石塚喜久三。無理やり纏足にされる少女が痛々しい。人種差別や貧困から逃れる為に。お金持ちの家に嫁ぐ為に。小さい靴を、無理やり押さえつけられはかされてしまう。泣き叫び抵抗していた少女が最後には、纏足ではない姉に対して優越感を持つ(と思われる)、そんなラストが刺さる。…んだけど、二度と読みたくはない。そう思わせるのも、本の力の一つなんだろう。

(2019,8,9)


第18回芥川賞『和紙』東野邉薫。紙漉き業を営む一家。紙漉きの細やかな描写もあるが、繊細な、というより土に根ざした人々の泥臭い生活の匂い。この一家が、出兵した次男の恋人を引き取ることになり…。嫁を取らないまま二度目の出兵となる長男や、許嫁との仲がうまくいかない長女の友人。戦争が背景にあるために、単純ではない話になるのだが…。戦争だから、といって割り切って思い切った行動に出る訳でもなく、心に秘めたまま奥ゆかしく生きていく、昔はこんな風だったのだな日本人、と思う。私は好きなお話です。

(2019,8,11)


第19回芥川賞『劉廣福』八木義徳。満州の雇われ工人の劉廣福。うまく話せず、字も書けず、体だけは大きく、周りから莫迦にされていた劉廣福が、最後には工人のトップにいたよ、というお話。なんというか余計な描写もなく、読み物として面白かったです。読後感がいい。めでたしめでたしで終わる事って、ほんと珍しいからね芥川賞!

(2019,8,14)


第19回芥川賞『登攀』小尾十三。簡単に言うと、担任の教師が、プライベートで鬱屈して、気晴らしに一緒に山に登ってくれるちょうど良い生徒を探すのです。それで登攀。しかし時代も時代、国籍も国籍。なかなかに複雑。満州の中学の日本人教師と、朝鮮人の生徒。母国の生徒よりも彼を偏愛し、教師として人としてこの子を高めたいと思う気持ち、それが自分の生き様と関わってくるような。悪くない、けど終わり方がちと不満。(2019,9,4)


第20回芥川賞『雁立』清水基吉。なんてことない恋心のお話が「戦争」の額縁に収まっている。「放課後別れたら明日はもう会えないかもしれない♪」ってやつだ。不必要と思うような細かい記述もあったりして、私小説なのかな?と一瞬思った。でも最後にはもう一度最初のページを見ずにはいられない。

(それにしても第13回からずっと戦争だなあ)

(2019,9,14)


第21回芥川賞『本の話』由起しげ子。ああ久しぶりに戦争関係ない話!戦争終わったから!

この物語はとてもスラスラと小気味好く読める文章で、病気の姉の為にお金を工面しようと奮闘する姿が描かれており…しばらく描かれており…後半ようやく「本の話」になります。義兄の残した学術的な本を売って療養費の足しにしたい、でも内容を知るうちに、本当にこの本の価値がわかる人に引き取ってもらわねばなるまい、という使命感が生まれてきて…。

現代の小説ではありえないと思うんだけど、「よくわからないところ」があります。急に“何ヶ月かぶりに「上の子供」の住む家に帰った”とあって、びっくりする。今まで一緒にいたのは下の子供で、でもどちらも未成年ですよ、小学生ですよ、上の子どもはいったい誰が面倒見てるの?えーーーー

あと、ラストで急に観念的な叙述が畳み掛けるようにある。お、おおお〜?どうした???と、思いました。

 

芥川賞ですからね、若い才能をすくい上げる場なのです。今とは少し、違うものなのだと思います。

(2019,9,21)


同じく第21回芥川賞『確証』小谷剛。ブレずにただ一つのことを描いている。若い女子を手篭めにしようと頑張る医者の話です。それ以上でもそれ以下でもないです。

(2019,9,29)

 


第22回芥川賞『闘牛』井上靖。安定。闘牛の興行という、少し地味なようなお話だけど、このまま映画にもなりそうな。直木賞でも良さそうな。とにかく、安定。無駄もない。

(2019.10.10)


第23回芥川賞『異邦人』辻亮一。舞台は“木枯国”という事なんだけど、ファンタジーではありません。どうやら満州…?日本人捕虜のお話。また例の戦争ものか…と最初はうんざりしていましたが、読ませる読ませる。続きが気になってガンガン読んだ、というのはこの賞ではなかなかない、珍しいです。そして評言で「誰にも、何かを与える作品」と言われるように、苦しく絶望しかないような中でも「人はなかなか行き詰らないものだ」って思わせてくれる。生き詰まらない、ものだと。(2019,10,28)


第24回芥川賞、該当者なし


第25回芥川賞『壁ーS・カルマ氏の犯罪』安部公房。芥川賞作品だけを読んできたので、もしかしたら違うのかもしれないけど「こういうのも、アリなんだ!」とみんなが思ったかもしれない、分岐点的な作品に思える。シュールな、なんでもアリの、童話のようなそうでないような。奇想天外な展開が続くことで、逆にちょっともたついてしまった感もしました。でもすごい作品なんだきっと。

※この作品は『不思議の国のアリス』に触発されて書いたものらしいです。

(2019,11,15)


第25回芥川賞『春の草』石川利光。タイトルから連想するような爽やかなお話ではなかった。復員して職を探す主人公。ところどころ言葉の意味を捉えにくかったりしました…。「だらしのない主人公」というのはよくある形ではあるけど。読んでて楽しい話ではない、それは「人を書いているから」なのかな…?

 

(2019,11)

 

 

 


第26回芥川賞『広場の孤独』堀田善衛。大戦直後の日本。朝鮮戦争が勃発し、ただならぬ気配の中の新聞記者たちのお話。古い話だけど、今に通じるところも多々あるように思う。(最初は、よくあるタイプの戦争関係の話かー…と思って読み始めたけど(^^;;))「雰囲気を描く」の巧みだな、と感じました。この時代の雰囲気、は確かに感じました。

 

※宮崎駿さんが最も尊敬する作家。(2019,12,1)


第27回芥川賞、該当なし


第28回芥川賞。まるで何かに取り憑かれたような強さの剣豪、幻雲斉と、彼に弟子入りした男。この男はかつて友人が、自分の勧めで幻雲斉と勝負して命を失っている。けじめとして自分も勝負を挑み、負けたが命は取りとめ、やがて幻雲斉に師事するようになるが…。剣の事は詳しくないけど、面白く読めた。でも相変わらず(?)選考委員の評はひどい。川端康成など「選の後読んだ」

※この作品はドビュッシーの『西風の見たもの』に着想を得て書いたらしい。

(2019,12,12)


第28回芥川賞、松本清張。森鴎外の、紛失したとされる「小倉日記」を、取材で埋めようとする無名の文学青年。森鴎外を追う文学青年を松本清張が追う。文章は確かで、坂口安吾が言うように「老練」。「小倉日記の追跡だからこのように静寂で感傷的だけれども、この文章は実は殺人犯人をも追跡しうる自在な力があり…」坂口安吾が見抜いていたのか、この書評を読んだ松本清張がそちらへ向けられていったのか…。どちらにしろ安吾すごいー。

松本清張は小倉出身です(2019,12,12)

 


第29回芥川賞『悪い仲間』『陰気な愉しみ』安岡章太郎。どちらも、誰の中にでも生まれうる、まっすぐでない、でも魅惑的な、そういう道を行くことへの悦楽、単純なダークサイドでなく…本当に身近なように感じる、日陰な部分。芥川賞らしい作品。軽い文調で読ませる。

(2020,1,5)


第30回芥川賞、該当なし